小川さんの部屋は、想像していた以上にすっきりとしていた。

 全体がベージュ色で統一された、インテリアの本で見るような落ち着いた部屋だった。


 余計なものは何もない、といった感じなのだけれど、

 部屋の隅に置かれたドレッサーの上には茶色の小さなクマのぬいぐるみが座っていて、

 やはり女性の部屋なのだな、と思った俺はそのクマのように小さくなってクリーム色のソファに腰かけていた。


 小川さんは白いカップに紅茶を淹れて運んできてくれた。

 湯気にのって、柑橘系の香りが部屋を満たしていく。

 図書館ですれ違う彼女の匂いがそれに似ていることに気づいた。


「突然すみません」

「何か、私が藤本さんの部屋にお邪魔したときみたいですね」


 ふふふ、と彼女が笑う。

 柔らかい笑顔ではあるけれど、青白い頬は体調の悪さを十分に物語っていた。


 手短に、俺がここに来た理由を話した。

 斉藤さんからの紙袋を受け取った小川さんは喜んでいた。

 俺のほうはといえば、何も持ってこなかったことに恐縮しながら、ただ彼女に頭を下げるだけだった。


 二杯目の紅茶を淹れてきてくれた彼女の足元がふらついている。

 長居はできないだろう。そのつもりもない。


 これを飲んだら帰るから構わずに寝てくれと言うと、

 彼女は「すみません」と小さく微笑んで素直にベッドに横になった。


 正直驚いた。

 よほど具合が悪いのか。

 俺がカップを口に数回運んでいるうちに、彼女はそのまま眠ってしまっていた。

 まるで、あの時の俺のように。


 もちろん、彼女に対して何かをするつもりはないけれど、

 ここまで安心しきって眠られてしまうと、さっきまでの緊張もすっかり忘れてしまう。


 横になった彼女の寝間着の胸元が僅かに開いている。

 こんなに無防備でいいのだろうか。

 知り合って間もない男と二人きりだというのに。


 気にしないつもりでも自然にそこに行ってしまう自分の視線に戸惑いながら、

 しばらくの時間、俺は彼女の子供のような白い寝顔をソファから眺めていた。