「はい、確かに」


 斉藤さんは、PC画面を見たまま呟いた。

 そのまま自分の席に戻ろうとしている背中に向かって


「あの、」


 声をかける。

 正確には、かけてしまった。


 椅子の背もたれに手をかけた斉藤さんが首をかしげて振り返った。

 なんですか? 表情がそう言っている。


「その、今日は…小川さんは…」


 斉藤さんから視線を反らしながらも俺の口は勝手に動いていた。


「小川?」

「はい」


 低い声に顔を上げると、斉藤さんはじっと俺を見ていた。


「風邪ひいたんですってよ」

「風邪、ですか」

「ええ、こじらせたとか言って」


 斉藤さんはますます俺の顔をじっと見ている。

 何か言いたげな表情だ。


「あの…いつからですか」

「休んだのは今日ですけど、少し前から体調は良くなかったみたいですね」

「そうですか」

「君、この前の人だよね」

「え?」


 話題が変わったことに戸惑っていると


「待ち合わせしてた人でしょう?」

「え、ああ、はい」

「小川に話を聞きましたよ」

「話?」

「あまり二人で話すこともないんですけどね。次の日、小川が珍しく私に話をしてきたんですよ、君と食事に行ったこととか、」

「え…」

「倒れたところを病院へ運んでくれた人なんだってことなんかもね。まあ、珍しく」

「そう、ですか」


 俺は何だか、他人事のような気持ちで斉藤さんの声を聞いていた。