俺がまじまじとその顔を見つめていると、


「まあ、お前はそう思ってないかもしれないけど?」


 ふてくされたような態度で壁に寄りかかった圭吾は


「お前大学にいたときからそうだよな、なかなか自分のことは話さないし」


 拗ねた子供のように唇を尖らせている。


「これでも一応心配してるんだからな」


 頭をかく姿を見て、俺の気分も少しだけ軽くなった。


「ああ、わかってるよ」

「ホントかよー」


 圭吾が俺を気にかけてくれていることは分かっているつもりだ。

 コイツはコイツなりのやり方で、こうして俺を誘い出してくれてるのだから。


「ホントだって。でもな圭吾、お前はもっと人に話す空きを与えたほうがいいぞ」

「だから。聞いてやるって言ってんじゃん。今日はお前の話」

「まあ、また今度な」

「何だよ。つまんねーの」


 まだ話さなくてもいいだろう。

 もしもこの先、変化があったならばそうすればいい。

 変化など無いかもしれないけれど、まだ、何をどう話せばいいのか分からない。


 話題を変えようと、


「今日は奈巳は?」


 壁掛けの時計を見ながら圭吾に聞いた。

 もう零時を過ぎている。


「ああ、奈巳ね」


 壁から体を剥がした圭吾も時計を見た。


「風邪ひいたんだってさ。昨日は大学も休んだ」

「そっか。実は俺も3日寝込んだ」

「3日? まじで? 流行ってるもんな風邪。奈巳大丈夫かな。まさかインフルエンザだったらヤバいよな」


 また心配顔に戻った圭吾は携帯を取り出して奈巳へ電話をかけようとしたけれど、

 もうとっくに寝てるだろうからとその手を制した。


 今日はカウンターの中にはオヤジさんが一人きりだ。

 どうやらコミヤも風邪をこじらせたらしい。


 これ以上長居してオヤジさんに負担をかけるのも可哀想だと判断した俺達は、1時になる前に店を出た。


「月曜も奈巳が休んだら、俺、見舞いに行ってくるわ」

「ああ」


 一人で帰って行く圭吾の姿を見送ってから見上げた空には、

 数日間見え続けていた星の光が消えていた。