カウンターに戻った小川さんは、

 さっきの親子への貸出し作業をしている。


 おじいさんと黒人男性の間に座った俺は、

 本のページを捲ってそんな小川さんを待っていた。


 元々はコンビニへ行こうと思って出てきた体だ。

 思いついて傘を持ってきただけであって。


 何だか余計な気を遣わせてしまったような展開に、

 ページを捲る手も全く進まなかった。


 利用客が次第に帰っていく館内で、

 一人残った俺はどうしていいのか分からずにいた。


 いつまでもこうして座っていたのでは斉藤さんに怪しまれるだろうと思い、

 閉館1分前に腰を上げ、本を棚に戻し、

 カウンターにいる小川さんに目線を送ってから外に出た。


 すっかり暗くなった空には、

 もやをかけられたような半月が浮かんでいる。


 ダウンジャケットを着こんできて良かったと思いながら、

 外のベンチで10分ほど待っていた。


 待っていてもいいのだろうか。


 そんなことを思いながら月を見上げていると、

 先に斉藤さんの姿が中から現れて、

 ベンチに腰を下ろしていた俺にちらりと視線を投げかけた。


「小川と待ち合わせですか?」

「え?」


 その言葉に驚いて座ったまま顔を見上げると


「今出てきますから。寒いでしょう?」


 そう言って、慣れていないような笑顔を向けた斉藤さんは駐車場の車へ歩いていった。


 エンジンのかかった車は直ぐに暗闇に消えていった。