ファンヒーターの風は、部屋の中をほどよく暖めている。
パンが入った俺の体も温まった。
熱のせいもあるのだろうけれど、
温まるというよりも、暑いくらいだ。
ソファに座りながら、彼女も俺と同じパンを食べている。
「美味しい」と言ってびっくりしたように目を開いている姿は少女のようにも見えた。
目の前にいる小川さんは、
図書館で見ていた時とも昨夜の感じとも雰囲気が違っていた。
何というか、普通、なのだ。
多少痩せすぎなところを除けば、電車や街でみかける女性と何ら変わりない。
ただ、さっきみたいに子供のような表情を見せたかと思えば、
ふいに影が差して窓の外に目を向けたりしている。
図書館では同い年くらいに見えていたけれど、
たぶん、いくらか年上だろう。
奈巳の顔を思い出し、それと比べると明らかだ。
何気ないしぐさからもそれが分かる。
あまりにも突然のことだったので、
肝心なことを聞いていなかったことに気づいたのは、
小川さんがゆっくりと食べていたパンが無くなるころだった。
「あの」
「はい」
「どうしてここが分かったんですか?」
そう、どうして小川さんが今目の前にいるのか。
しかも俺の部屋だ。
圭吾と奈巳以外、誰も知らない隠れ家のようなアパート。
向かい合ってコーヒーを啜り、パンをかじっているなんて。
不思議で仕方がない。
今頃それに気づくなんて、自分に呆れながら彼女の返事を待っていると、
「あ、ごめんなさい。そうよね」
彼女もまた、今気づいた、みたいな顔になって姿勢を整えた。

