ユニホームの上着を脱ぎ、ロッカーの中に吊るす。

 カバンから携帯を取り出すと、青く点滅していた。


『メール未読一件』


 圭吾(けいご)からだった。

 いつもの、週末の飲みの誘いだろう。

 確認すると、案の定そうだった。

 
「めんどくせーな…」


 先週も誘われて行ったばかりだ。

 圭吾に付き合うと、何だかんだと引き伸ばされて長くなる。

 日曜が休みの圭吾にしてみれば何でもないだろうが、

 こちらはそうもいかない。

 明日だってシフトが入っている。

 学生とは違うのだ。


『今日はパス』


 と打とうとして指をボタンに這わせているうちに、着信音が鳴った。

 ボタンを押していた勢いで取ってしまったその電話に、ため息を付きながら声を出す。


「もしもし」

『あ、淳? 俺。何だよ、ため息つきながら電話に出んなって』


 田中にも似た軽い調子の声がする。

 俺が知る限り、学生はみんなこうだ。


「付きたくもなるだろ」

『なんだよそれ。ってか仕事終わったんだろ?』

「ああ」

『じゃ、これから飲もうぜ。メールしといたんだけど見た?』

「今見てたとこ。っていうか先週も飲んだろ。今日は止めといたら?」

『いいじゃん、この間の話、まだ話し足りてねーんだよ俺。付き合えって』

「あれだけ話してまだ足りてねーのか、お前は」

『ま、いいからいいから。いつものとこで待ってるし。じゃーな』


 プツ。


「…ったく」


 こっちの都合なんてお構いなしだ。

 言いたいことだけ言って切れた携帯をしばらく眺めてから、タイムカードを押した。


「おつかれっしたー」


 間延びした田中の声が追いかけてくる。

 
「寝るなよ」


 その声に後ろ手を上げて応えてから、雨の匂いが満ちる外に出た。