俺と小川さんは、部屋の中で途方に暮れていた。


 小川さんはたぶん、元々部屋に上がる気などなかっただろうし、

 俺は俺で気を利かせたつもりが、

 これからどうすればいいのか検討もつかなかった。


 とりあえずソファに座るように促すと、

 小川さんは「はい」と小さく返事をして素直に腰をおろした。


 青いソファの端に遠慮がちに座った彼女は、

 肩までの髪を軽く両耳にかけて、ひとつ、息をついた。


 薄い耳たぶには小さなピアスが光っている。

 差し込まれたそれを見て、昨晩の針を思い出した。


「昨日、大丈夫でしたか? その…あの後」


 とりあえず見つかった言葉がそれだったので、浮かんだままを口にすると、

 小川さんは持ったままだった箱をテーブルの上に置いてから


「はい。すぐに帰れました。それより藤本さんは? 戻ってから叱られませんでしたか?」


 申し訳なさそうに俺を見上げた。


 叱るような人間と一緒ではなかったので問題はなかったと応えると、

 小川さんは「良かった」と笑ってから窓の外に視線を移した。


 僅かに尾を引いた雨粒が、窓ガラスの三分の一ほどを濡らしている。


「コーヒーでいいですか? っていってもそれしかないんですけど…」 


 横顔に声を掛けると、小川さんははっとしたように振り向いて


「どうぞお構いなく。あ、でも一杯だけいただいていこうかな」


 揃えていたストッキングのかかとを軽く持ち上げた。