彼女はしばらく何かを考えるように、ただ天井をぼうっと眺めていた。
時々、唇が小さく動く。
ここにたどり着くまでの経緯を頭の中で追っているのだろうか。
黒い瞳にはもうしっかりとした光が戻ってきていて、
ようやく納得したように軽く頷いた。
次の言葉が出てこず、そんな彼女の様子を呆けたように突っ立ったまま見おろしていた俺は、
どうしたらいいのか分からずに髪を掻いた。
「私、歩道橋にいたんですよね?」
彼女が俺を見て呟いた。
「え?」
「あれ? 違うんですか?」
「あ、いや、そうです。その、倒れてて」
急なことに巧く言葉を返せなかった俺だったけれど
「あなたが、運んでくれたんですか? それとも救急車とか、なのかな」
なんだろう。
妙に手際が良いというか、
過去にもこんなことがあったとでもいうような、
そんな確認の仕方だった。
俺のほうが拍子抜けしてしまいそうなあっさり加減だ。
体を起こそうとした彼女を制すると、
「すみません」
小さく微笑んだ彼女はまた静かにベッドに横になった。
どこかで見たような笑顔だ。
小さくて、儚くて、薄い…
「あなた…店員さん?」
「え?」
「それ」
彼女の指差す先を目で追うと、湿ったコンビニのユニホームにたどりついた。
「あ、やべ」
所々まだらになっているユニホームを見て気がついた。
そういえば田中に何も言わずに出てきてしまっていた。

