彼女の細い右腕には、点滴の針が痛々しく突き刺さっている。



 ぽたり ぽたり ぽたり



 定期的に落下する透明な液体が、

 うねりながら伸びるチューブをゆっくりと下っていく。


 着替えさせられたのだろう。

 薄いブルーの病院着に身を包んだ彼女は、本当に病人のように見えた。


 開いた袖口からほっそりと伸びる彼女の腕。

 そこに刺さった針をしばらくぼんやりと眺めていたけれど、

 急に背中に悪寒が走ってくしゃみが出た。


 そういえば自分も濡れたままだった。

 鼻をこする指先はまだ冷えきっている。

 朝から重いままだった頭の奥が、何となくじんじんと痛んでいた。


 針は痛々しいけれど、

 眠る彼女の顔は比較的穏やかだ。


 帰ろうか、と思った時、

 まっさらな彼女のまつげが僅かに動いた。


 ゆっくりと開かれていく二重まぶた。

 その下の黒い瞳。


 天井の明かりに一瞬きゅっと目を閉じてから再び開かれた瞳が横を向いて、

 振り返りかけた俺の姿を捉えた。


「あの…大丈夫ですか?」


 しまった、と思った。

 声をかけるつもりなどなかったのに。

 顔を見てそのまま帰ろうと思っていた俺の考えは自分によって憚られた。


「あれ?」


 ここはどこだろう、まさにそんな表情をした彼女が口を開く。

 自分の状況を飲み込めていないようだ。


「私…」


 首を動かして、針の刺さった腕を眺めている。

 目でチューブを追って落下する点滴に視線を定めると、

「もしかして病院?」

 独り言を小さく呟いた。