気にするな、と言われれば余計に不安になり、

 かかわるな、と忠告されればますます踏み込んでしまう。


 見なかったことに、という言い訳は気休めにしかならず、

 見てしまった事実は消えることなど決してない。


 自分には関係のないことだ、と思っている時点ですでに、

 心のどこかで気にかかっている。



「藤本さん、コーヒー飲みませんか?」


 田中の提案に俺は素直に頷いた。

 コーヒーの効果など期待はしていないが、

 飲めばいくらか目が覚めるような気にはなる。


 スタッフルームの狭いテーブルに二人で腰をかけ、

 四分割されたモニターを時々眺めながら、ぬるいインスタントコーヒーを啜った。


 テーブルの上の小さな置時計は、もうすぐ0時になろうとしている。


 秋が終わる。


 あと数分で、外の気温に見合った季節が訪れる。


 変わらないで欲しい、と願うものほどあっけなく過ぎ去っていく。

 ずっと遠いものに変わっていく。



 コーヒーを飲み終わった田中は再び雑誌コーナーへ向かった。

 漫画本を手にし、読み入っている。


 モニターに移る田中の後ろ姿を眺めながら、数分が過ぎた。

 針は0時を回っている。


 時間を持て余した俺は、

 外の灰皿の片付けに向かった。



 そこから、俺の冬の時間がゆっくりと動き出すことには気づかずに。