振込用紙のバーコードをスキャンしている間、

 客の一人は思い出したようにすぐ脇のタバコに手を伸ばし、

 もう一人は忘れ物を取りにいくようなしぐさで後ろの棚からビールを運んできた。


 おでんの匂いに誘われたのか数種類の種を注文すると、

 袋を受け取って満足そうに帰っていった。


「俺、覚え悪いっすね」


 自動ドアが閉まるとすぐに、田中が言った。

 自分に本気で呆れる、そんな表情をしている。


「わかってるなら早く覚えろよ」

「覚えるんですよ、その場ではちゃんと」

「そういうのは覚えるのうちに入らねーの」

「俺、昔っからこうなんすよ。よく大学に入れたな、なんて母ちゃんが言うんすよ」

「わかってるな、お前の母ちゃん」

「あーー、ひでぇ、藤本さん」


 田中と笑いあいながら外へ視線をむける。

 レジから見る歩道橋は、ガラスに反射する店の光と壁の位置で見えない部分が多い。


 ましてや夜と雨だ。

 彼女の姿は、ここからは確認できなかった。


「藤本さん? どーしたんっすか、さっきから。何かぼーっとしてますよ。ってか、もう一回教えてもらえますか、振込用紙の扱い方」


 相変わらずどこに返事をすればいいのか分からない田中の言葉にしぶしぶ頷いた俺は、

 5分くらいかけて細かに教えてやった。