目が覚めると、すっかり夜だった。

 真っ暗な部屋のなかを手探りで進み、明かりをつけた。


 時計を確認するともう9時を過ぎている。

 電車で二駅目といっても、歩く距離も含めれば30分以上はかかる。


 俺は急いで身支度を整えた。

 部屋の中を歩き回るあいだ、冷えた体が細かく震えていた。


 換えのスニーカーに履き替えて外に出ると、

 霧雨に変わった今年最後の秋の雨が、文字通り霧のように白く通りを覆っていた。

 街灯の下でゆらゆらと、虫のように揺れている。


 体にまとわりつく細かい雨は、

 パーカーの布地の上にも細かい跡を作った。

 傘を持つ手が冷たくて、ポケットに交互に手を入れては持ち直しながらコンビニへ向かった。



 コンビニの自動ドアが開く直前に、

 そういえば、と思い出し後ろを振り返った。


 歩道橋の上に、いつもの女の人の姿はなかった。

 明日に冬を控えた今夜、一層冷たくなった空気が辺りを覆っている。

 さすがに今夜は現れないだろう。

 二日連続であんなところに立つなんて、

 よっぽどの物好きか、少し、可笑しな人だ。


 
 自動ドアが開いて、寒さから逃げるようにして中に入った。

 温かい空気とおでんの匂いが俺を出迎えた。


 今夜も、退屈で長い、朝までの時間をここで過ごす。

 ぽつりと現れる客の相手をしながら。


 いつもと違うことといえば、

 0時をまたいだ時計の針が、

 その瞬間から冬の時間を刻み出す、それだけだ。


 何も変わらない、


 ――――はずだった。