「俺は……ずっと、」



 彼女の手から傘を取り上げた俺は、その体を引き寄せて抱きしめた。



「小川さん……」

「うん?」



 彼女の首筋に埋めた自分の目からも、いつのまにか涙が零れていた。



「小川さん……小川さん……」

「……うん」



 何度、あなたの名前を呼んだだろう。

 一人きりの部屋で、夢の中で、

 ……この歩道橋で。



「ずっと、待ってたんです、ここで。あなたと出会えたこの場所で」

「うん」

「生きているあなたを信じて。もう一度会えると信じて」

「……うん」



 不安に包まれながら、毎日この場所に足を運んだ。

 折れそうになる気持ちに喝を入れて、信じて待った。

 来ない人じゃなく、きっと来てくれる人を。



「小川さん……」

「藤本くん……」



 どうかこのまま、

 ずっと俺の傍にいてください。




「今度こそ、俺の……俺だけのあなたになってもらえませんか?」






 優しい雨が降りそそいでいる。


 歩道橋の上に咲いた、一輪の傘の花と、俺たちの上に。




 腕に包んだ彼女が、小さくひとつ、うなずいた。







  ――Fin――