「……待っ……」


 俺はとっさに走り出していた。


 人込みをかき分けて、夢中で走った。


 傘の間に見え隠れする姿を目の端に入れながら、階段を無我夢中で駆け上がった。



 もう、見失いたくない。

 これが最後のチャンスなら、見失うことなどできない。



 じょじょに、その距離が縮まる。



 下りの階段に差しかかる直前、

 俺は声をかけるより先に、その細い腕をつかんでいた。



 驚いた肩が、ぴくりと持ち上がる。




 立ち止まり、ゆっくりと振り返ったその人は、



 ―――小川さんだった。