すれ違う、大勢の人。

 色とりどりの、傘の群れ。

 そこには、いつかと同じような光景が広がっていた。


 それほど広くもないコンビニ前の歩道は、溢れる人でいっぱいだった。

 人の流れに逆らって歩道橋へ向かっている俺の足は、なかなか思うように進まない。



「……ったく」



 しっとりと湿り始めたシャツの腕を、ぼやきながらさすっている時だった。



「―――っ…」



 何気なく向けた視線の先にとらえた人影に、俺は、息をのんだ。




 歩道橋の上に、ひとつだけ、動かない傘があった。


 霧雨に煙る空気のせいで、はっきりとした姿は確認できないけれど、

 それは、見覚えのある光景だった。


 
 急に立ち止まった俺の肩に、人の波がぶつかりながら過ぎていく。


 よろめきながら背伸びをし、押し戻されそうになる体を必死で支えて歩道橋の上に目を凝らした。


 けれど、周りにあふれる傘が邪魔をして、視界は思うように開けない。



 人の波を無理やりにかき分けた俺は、車道と歩道の間の柵に手をかけた。


 身を乗り出して、再び歩道橋の上に視線を走らせる。


「あ……」


 やっととらえた姿は、人の波にのってゆっくりと動き出していた。