「だから、俺に気をつかう必要なんてねーよ」


 肩を落とす二人に笑いながら声をかけると、


「でも……」


 顔を上げた奈巳がつぶやいた。


「でも……どこかできっと見てるよ、淳の書いた本」


 赤い顔のまま、けれど俺の目をじっと見て柔らかくほほ笑んだ奈巳の目に、薄っすらと光るものが見えた気がした。


「うん」


 半分苦笑しながら返事をすると、


「絶対読んでるって」


 奈巳の肩を抱いた圭吾が、ニッと白い歯を見せた。


「この野郎、見せつけやがって」

「いいって言ったじゃん、お前。もう俺、気にしないもんねー」

「ちょ、ちょっと圭吾!」

「今日はお前の祝いもあるけど、俺たちの就職祝いも兼ねてるんだからな」

「だから何だよ」

「割り勘で」

「あ? 今日はおごりって言ったじゃん」

「まあまあ、いいじゃん。とりあえず飲もうや」

「あのな……」

「じゃ、かんぱ~い!」


 奈巳の音頭でグラスを合わせた俺達は、閉店ギリギリまで飲んだ。

 あの頃のように。


 視界に映るオヤジさんの顔は、いつもどおり優しかった。