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「じゃあ、改めて、もう一回、かんぱーい!」


 奈巳の高い声が店に響いた。

 3杯目を飲み干そうとしている奈巳の頬はすでに真っ赤だ。

 大学入学時と同じくらい、ふっくらとした頬に戻った奈巳の姿を見て、

 不謹慎かもしれないが、俺は改めてほっと胸を撫で下ろす思いだった。


「奈巳、そろそろペース落としたほうがよくね?」

「なんで? まだまだダイジョブだし」

「ろれつ回ってねーし」

「まだイケるし」


 圭吾の手が奈巳の頭に降り、叱るというよりは優しく撫でている。

 それを振り払おうとする奈巳の頬は、酔ってるせいなのか……いや、別の理由もあるだろう。一層赤く染まった。


「仲いいな、お前ら」


 思ったままを口にすると、


「いや、別にっ」

「そ、そんなんじゃないしっ」


 分かりやすい二人の反応が返ってきた。

 
「お前ら、付き合ってるだろ」

 からかい半分で言ってやると、

「えっ!?」

 同時に声を上げている。

 本当にわかりやすい奴らだ。


「良かったな」

「いや……」

「その……」


 俺に気をつかっているのか、急に肩を落とした二人は、ジョッキを握りしめたままうつむいてしまった。


「いいんだよ、俺は。良かったよ、お前らでちゃんとまとまって。また他のうるさい奴らが仲間入りするかと思うと頭痛いし」


 努めて明るく言った。けれど無理じゃない。本心だ。

 こいつらが居てくれて良かった。

 こいつらだけじゃない。オヤジさんも、田中も、コミヤも。

 居てくれて、良かった。


 ここに来るまでの道は決して無駄じゃない。

 すべてその先に繋げるための大事な通過点だ。


 ひとつひとつを思い起こしながらあの物語を紡ぐことによって、それを理解することができた。


 不思議なくらい、俺は穏やかだった。