オヤジさんの店を出て、途中のコンビニでチューハイ缶を買ってからアパートへ戻った俺は、床に座り込んで、一気にそれを飲み干した。

 
 情けない。

 情けない。

 情けない。


 一体自分は、何をやっているのだろう。

 このままずっと小川さんとの1ヵ月に縛られたまま、生きていくのだろうか。


 ―――仕方ないだろう。

 俺にとって、彼女と過ごしたあの日々は、

 これまで生きてきた時間のなかで、最も大事な時間だったのだ。

 一生懸命に生きた。そう言える時間なのだ。

 そのくらい、濃かったんだ。

 その時間が戻せないのなら、これから先にやってくる時間なんて、すべて無意味なのだ。



“これから先の時間はいくらでもあるんだ”


「そんなの、意味ねーよ」


“それをどう使うかで、変えられるものはいくらでもあるはずだろ”


「そんなの……変わるわけねーだろ」



 独り言が広がる狭い部屋の中、寝転がった俺の足がカラーボックスの角にぶつかった。


「って……」


 足先に手を伸ばし、かかとをさする。

 ふと視線がむいた棚の奥に、白い影が見えた。

 小川さんがくれた、真っ白な本だ。



“まだ何も書いてないの?”


 
 彼女の声が聞こえたような気がした。

 慌てて首を振る。

 酔った視界が、ほんの少しぐらついた。


 何気なく手を伸ばし、白い本に手をかけた。

 手前に無造作に並べられたノート類がバラバラと床に広がった。


 ページをめくる。

 あの日のまま、白いままの紙の束。

 
 転がり出てきたペンを握り、ページの上に手を置くと、



 小川美咲



 自然に動いた俺の手は、

 彼女の名前を記していた。