3月中旬。

 街から冬のなごりが消え、そろそろ桜の気配が漂い始めた。


 季節はゆっくりと、けれど確実に過ぎ去っていく。

 時間は待ってくれもしなければ、戻ることなど絶対にない。


 小川さんが消えてから1年が過ぎ、2年目の春を迎えようとしていた。





「あ、淳! やっと来た!」


 オヤジさんの店の中に、久しぶりに3人の顔がそろった。

 店先ののれんは相変わらず白っ剥げてはいるけれど、

 居心地の良さはずっと変わっていない。


 オヤジさんの額の皺は1年分深くなり、

 こちらも相変わらずぱっと見やくざみたいな雰囲気はあるけれど、

 カウンターにいる圭吾と奈巳、そして入口に立った俺を交互に眺める視線は優しかった。


「よし、じゃあ祝賀会開始! オヤジさん、とりあえず焼き鳥、う~んと、適当に10本くらい!」

「なんだそれ。ま、とりあえず向こうに移動しろ」


 圭吾の声に返事をしたオヤジさんは、

 顎でテーブル席を差し、カウンターに乗りかかるようにして座っていた圭吾の頭をこついた。

 奈巳と圭吾が立ち上がり、まだ入り口にいる俺に手招きしながらテーブル席に向かう。

 
「遅いぞ、淳。さっきからずっとあいつらに話しかけられて大変だったんだ。
早く席について相手してやれ」


 俺はまだよくこの店に通っているけれど、

 圭吾と奈巳は半年以上……いや、もっとだろうか、かなり久しぶりだ。

 俺がこの店に到着するより先に来ていた奴らは、

 オヤジさんの仕事の邪魔になるくらいの勢いでおしゃべりを繰り返していたらしい。


「すみません」

「まあ、いいだろ。今日はお前の祝いだって?」

「ええ、そうみたいで」

「じゃあ、少しサービスしてやるか」

「いや、いいっすよ」

「まあ、座れ」

「ありがとうございます」


 俺はオヤジさんに頭を下げ、カウンターの前を過ぎて、圭吾たちの座るテーブル席についた。