そうやって生きてきた彼女のことを、


「俺は……」


 追わなかった。


「なんでだよ……」


 消えていく彼女の姿を、最後まで追えなかった。



 人込みをかき分けて、

 傘の隙間をぬって、

 見つけるまで、

 この腕に包むまで……


 どこまでも、

 追うべきだったんだ。



「ちきしょう……」


 さしていた傘は、いつのまにか傍で転がっていた。


「ちきしょう……ちきしょう……」


 頬を、雪に変わりはじめた雨粒と涙がとめどなく流れていく。


 膝をついたコンクリートから、冷たすぎる冬の雨が染み込んでくる。

 
 柵を握りしめていた両手が、力なく地面に滑り落ちた。



 俺は声を上げて泣いた。


 濡れたコンクリートに額を押しつけながら、いつまでも泣き続けた。




 顔を覆ってうずくまっても、

 どんなに雨に打たれても、

 声が枯れるほどあなたの名前を叫んでも、




 もう、届かないんだ。


 あなたには、届かないんだ。




 届かないんだ―――