「そんな……」


 あの夜、彼女は、

 俺を見ていたんだ。


 久しぶりに現れた、この場所で。


 亡くなった人の影を探すわけでもなくて、

 もちろん、飯島さんと喧嘩をしたからではなくて、


 俺を、見ていたんだ。


 俺に、会いに来ていたんだ。



「嘘だろ……」


 どうして、気づいてやれなかったんだろう。

 無神経な、彼女の気持ちを。


 本当は誰よりも寂しがりで、

 誰かに寄りかかることでしか生きてこれなかった彼女の気持ちを。


 確かな誰かの愛を必要としていた、彼女の気持ちを。

 
 それを……

 俺に見つけてくれていたかもしれない、彼女の気持ちを。


 本当は誰よりも繊細で、人のことばかり気にかけて、

 自分のことを一番犠牲にしていた人じゃないか。 


 傷ついて、傷ついて、

 それでも誰かに合わせて、その人を傷つけないように。


 突き放せばまた、彼のように消えてしまう。

 だから彼女は、誰も突き離さない。

 受け入れて、流されて。

 いや、流されていたのともまた違う。

 自分を、殺していたんだろう。

 生きながら、殺していたんだろう。

 
 罰していたんだろう。