―――あの雨の日。


 人込みをかき分けて、彼女の姿を探したあの夜。

 俺は、コンビニの中から確かに彼女の姿を見ていた。


 この雨粒を散らしたような傘をさし、

 ぼんやりと前を向いて立ち尽くしている彼女の姿を。


 そのとき俺は……?

 田中とともにレジにいたはずだ。


 ……なのに、どうして歩道橋に立つ彼女の姿をとらえていたのだろう。

 見えないはずの彼女の姿を。



 目を閉じる。

 あの夜の静止画。

 俺のいた場所。


「そうだ……」


 あの日の数日前、新しい業務用のレンジを入れた。

 寄りかかるいつもの棚をレンジに占領されてしまった俺は、

 コピー機側の棚に移動して外を眺めていた。


 そして彼女は……


 はっとして、目を開いた。

 静止画の中の小川さんは、この場所にはいなかった。


 いや、確かに歩道橋には立っていた。

 けれど、この位置ではなかったのだ。


 再び信号機が赤に変わった。

 さした傘が、直下からの赤い光に反射する。


 あの日の小川さんは……信号機の明かりを横顔に受けていた。


 手のひらを握りしめ、右手方に数歩移動した。

 コンビニの中では、やはりレンジが邪魔なのか、コピー機側の棚に寄りかかって笑う田中の顔が見えた。

 友人だったのだろうか。さきほどの男性客と談笑している。


 その様子がはっきりと視界に入ってきた俺は、

 その場に沈み込んでしまいそうになる足を必死で支えた。