「俺、4月になったらここのバイトやめようと思ってるんっすよ」

「え?」


 突然の言葉に驚いていると、


「来年、俺も3年生になるし、そろそろ色々準備しておこうかと思って」

「ああ、そうか」

「別にやめる必要もないとは思うんですけどね。まだ3年だし。ただこのままダラダラしてたら、そのままになっちまいそうな気がして」

「……そっか」

「卒業して何をやりたいのかって聞かれても、わかんないんっすよ」

「うん」

「これじゃ駄目かなあって。駄目になっちゃうかなあって」


 鼻の頭をかいている田中の姿を見ながら俺は、まるで自分のことのようにその言葉を聞いていた。


「とりあえずやりたいことを見つけて、4月からのあと2年、それに向かって頑張ってみようかと思って」

「ああ、それがいいだろうな。頑張れよ」

「はい」


 照れくさそうに笑った田中は、「お疲れ様でした」と俺に声をかけると、レジに並んだ客のところへ小走りでむかっていった。


 そんな田中の様子をしばし眺めた俺は、

 自然と漏れるため息とともにコンビニを出た。


「駄目になる……か」


 呟いた声は夜の冷たい風に頼りなく消えた。


 星も月も浮かんでいない。

 雨も雪もまだ降り出してはいないけれど、凍てつくような寒さだ。


 すれ違う人たちの白い息と早足に急かされるようにして駅までの道を歩き、

 電車に乗り込んだ俺は、飯島さんとの約束の場所へとむかった。