今夜は5時から10時までのバイトだ。

 飯島さんとはそのあとに会うことになっている。


 面倒だ、というよりは、不安のほうが大きく、

 彼に会う時間が刻々と迫ってくると、レジを打つ手も重かった。


 10時を過ぎ、店を出ようとした俺に、交代の田中が声をかけてきた。


「藤本さん」

「ん?」

「顔、暗いっすよ。また何かあったんっすか?」


 最近の俺は、田中に心配をかけてしまうことが多い。

 田中にだけじゃない。

 連絡を取らなくなっている圭吾や奈巳も、

 そして随分と長い間行っていない居酒屋のオヤジさんも俺を心配しているに違いないだろう。


 勝手に落ち込んで、迷惑をかけて、

 俺は何をやっているのか。

 自分の不甲斐なさに呆れてしまう。


「別になんでもないよ」

「そうですか? でも藤本さん、ずっと元気ないし。それに……」


 言いかけた田中は口をつぐんだ。

 小川さんを追いかけて外に出たあの雨の日、

 びしょ濡れになって店に戻った俺に、田中はタオルを差し出しただけで何も言わなかった。

 
 俺が突然店を飛び出したのはそれが2回目だ。

 はじめて小川さんを病院に運んだあの日と、この前と。


 小川さんに関係することだとは田中も気づいているのだろう。

 口をつぐみ、視線だけを俺に向けたまま、心配の色を目に浮かばせている。


「あの、藤本さん」


 しばらく黙っていた田中が口を開いた。


「なんでもないって言ってるだろ」

「いや、うん。そうじゃなくって」


 田中は頭をかきながら小さな笑顔を見せた。