思い出はどうして、綺麗にとっておけないのだろう。


 人は我がままで身勝手だ。

 どんなに愛しいと思う相手のことも、

 それまでの日々を忘れて、

 ……いや、思い出してしまうからこそ、

 切なさを通り越して、憎しみにも変わってしまう。


 
「誰かに頼もうか……」


 音信不通状態になっている圭吾や奈巳に本の返却を頼むのも筋違いだろう。

 それに、

 そんなことを頼んだら……、あいつらのことだ、きっと必要以上に心配するだろう。


 小川さんとのことで迷惑をかけたのは俺のほうなのだ。

 彼女とのことでまた心配をかけるのは避けたい。


 圭吾の番号を表示させてボタンに指をかけている自分を制して、

 俺はしぶしぶ図書館へ向かった。



 
 久しぶりの図書館への道のりだった。

 日中とはいえ、2月半ばだ。

 冷え込みはまだまだ厳しいものがある。


 近づいてきた図書館を眺めながら出たため息は、

 目の前で白く濁ってから、冷たい空気に溶けこんだ。