「小川さん……!」


 声に出しながら、人ごみを掻き分ける。


 傘の間から見え隠れする怪訝そうな視線を浴びながら、それでも俺は叫んだ。



「小川さん、待ってくれ!」



 傘の隙間を追いかけた。

 見えない姿をどこまでも。



 どこまでも、

 どこまでも。



 追いかけて探した。



「小川……さん……」



 届かない声は雨音に溶け出していく。



「好きだ」



 そう、言いたかったんだ。



「好きなんです……小川さん」



 ただ、それだけを伝えたかったんだ。



 なのに、


 ――なのに。




 傘の隙間をいくら追いかけても、

 声がかすれるほど叫んでも、


 とうとう俺は、あなたを探せなかった。


 探せなかったんだ。



 だから俺は……