5分くらいの間だったろう。

 それとももっと経っていただろうか。


 白い傘が動いた。

 人の波にのって遠くなる。



“待ってくれ”



 そう思うのと同時に、自分の足が無意識のうちに動き出していた。

 気づけば雨の中へ駆け出していた。


 通りの人並みはまだ続いている。

 いくらか密度が薄くなったとはいえ、

 前から来るいくつもの傘にぶつかりながら俺は、歩道橋の上を目指した。


 降りしきる雨と、ぶつかるたびに弾け飛ぶ雨粒。

 コンビニのユニホームはあっという間に雨水で湿った。


 額にはりつく前髪をかきあげながら階段を駆け上がる。

 スニーカーを湿らす雨が、もつれる足をなおさら重くしていた。



 たどり着いた歩道橋の上。

 傘の波は前からも後ろからも押し寄せてくる。


 雨に濡れた顔をぬぐい、その先に目を凝らす。

 いくつもの傘がまるでおもちゃのようにひしめき合っている。


 白く見えていた彼女の傘は、いくら探しても見つからない。



“小川さん……”



 待ってくれ。

 行かないでくれ。