外はもう、晩秋というよりも冬の雨だ。
火照った頬を、数ヶ月前よりも確かに冷たさを増した空気が滑りぬけていく。
「ううう、寒いー」
コートの腕を摩りながら、奈巳が足踏みをする。
「小降りになってよかったな」
空を見上げながら、圭吾が白い息を吐いた。
黒い空にはもちろん、星も月も見えない。
通りの明かりも殆どが落とされている。
僅かに残る店の明かりに照らされた細い雨がしっとりと降り注いでいた。
「じゃ、また」
「ん、またな、淳」
「圭吾、ちゃんと送っていけよ、奈巳のこと」
いつものことだが、少々心配だ。
さっきの奈巳の腹を見たときの圭吾の反応を思い出して、少しきつめに言い聞かせる。
「もちろん。ご心配なく」
「またね、淳」
「ああ、またな」
俺も圭吾も奈巳も、この町のアパートに住んでいる。
同じ大学に通う人間が、この町には大勢いる。
俺のアパートは通りの向こう側で、圭吾と奈巳は逆方向だ。
3人で飲んだ帰りは、同じ方向に帰る圭吾が奈巳を送るようにしている。
住み慣れた町とは言え、夜中に女の一人歩きはさせられない。
ふらふらと歩くふたりの背中を見送ったあと、俺も逆方向に歩き出した。
終電が行ってしまった駅前は静かだ。
濡れたアスファルトの上には、
「一杯無料」と書かれたビラが所狭しと落ちている。
踏みつけられて、ぐしゃぐしゃになっているティッシュもある。
水溜りを避けながら、アパートまでの道を急いだ。
夜中の雨が、体の熱を奪っていく。
壊れた白い傘が、アパートのブロック塀の前に捨てられていた。
…あの人はもう、帰っただろうか。
頭の中を、白い傘と白いスカートがよぎった。