こんな雨の中で、立ち止まったまま君は


 2時間、3時間……、時間はゆっくりと過ぎた。

 俺の買ってきた小さなケーキに蝋燭を灯す小川さんの表情はまるで少女のように輝いていた。

 小川さんが用意したシャンパンは既に3分の2ほど空いている。

 ほんのりと赤く色付いた小川さんの頬は大人っぽく、

 蝋燭に瞳を輝かせていた少女のような顔とは対照的で胸が波打った。


 下の部屋からだろうか。

 時折、大人数で笑いあう声が聞こえてくる。

 グラスが立てる音と僅かな会話しか響かないこの部屋の中に、それは陽気なBGMのように鳴り響いた。


「にぎやかですね」

「うん。楽しそうだね」


 小川さんは小さく微笑んだ。

 指先で、サンタクロースの砂糖菓子を転がしながら。


「何か……すみません」

「え?」

「クリスマスに俺なんかと過ごしても……つまんないですよね」


 さっきよりも高くなった下から届く笑い声を耳に入れながら俺は呟いた。

 今更だけれど、押し付けがましい自分の行動に何となく落ち込んだ。

 小川さんと過ごせる自分は嬉しいけれど、小川さんがそれを喜んでいるとは限らないのだ。


「どうして?」


 余ったケーキの上にサンタクロースを戻しながら小川さんが口を開いた。


「え?」

「どうしてそんなふうに思うの?」

「いや、その……毎日毎日すみません。本当は迷惑だろうなと思って。でも……」


 ―――あなたが心配なんです。救いたいんです。


 その言葉は呑み込んで彼女を見上げた。

 小川さんは無表情のままじっと俺を見つめている。

 視線を逸らしかけると、


「そんなことない。楽しいよ」


 彼女が言った。


「なんかね、うん。楽しい。生きてるって感じ、するから」


 再びサンタクロースを指でつまみあげた小川さんは、

 それを顔の横でゆらゆらと揺らしながら笑った。