雨も、雪も降らないクリスマスの朝。

 夜勤を終え、田中とふたりで店の外に出る。

 自然と目に飛び込んでくる歩道橋の上にはちらちらと人が歩いている。

 小川さんがそこに居ないことが確認できると、やはりほっとする。


「今日は何かするんっすか?」


 出し抜けに田中が聞いてきた。


「何かって?」

「クリスマスだし。何かするんっすか?」

「別に何もしねぇよ」

「じゃあ、何かしますか、俺と」

「は?」

「俺ヒマだし」

「いや、別にすることは無いけど約束はあるから」

「えーー、そうなんっすか」


 田中の唇が「誰と」と動きかけて言葉を呑み込んでいるのがわかった俺は、


「小川さんと約束してるんだ」

「え! マジっすか。へぇ。俺、藤本さんと小川さんってケンカでもしたんだと思ってたんですよ。っていうか付き合ってるんですか、もしかして」


 田中が目を丸くする。


「いや、付き合ってない」


 俺の言葉に田中は「ふーん」と頷いた。


「よくわかんないけど良かったっすね。俺、これから何しよう。ま、友達にでも連絡してみようかな。じゃあ、とりあえずおつかれっした、藤本さん」


 田中の背中を見送って、とりあえず俺もいったん自分のアパートへ向かった。

 今日は平日で、小川さんは夕方まで仕事だから会うのはそれからだ。


 今頃は出勤の準備をしているところだろう。

 すっかりかっての覚えてしまった部屋の中を思い浮かべて、その中で動く小川さんを想像する。


 顔を洗い、髪をとかし、化粧をする。

 軽めの朝食をとって、テレビなんかを見ているかもしれない。


 歩きながら、電車に揺られながら、浮かんでくるのは彼女の顔ばかりだった。