今日のオヤジさんの店は客足が伸びた。
カウンター席もテーブル席も一杯になるほどで、俺は慌しく動くコミヤと目の前で忙しく包丁を動かすオヤジさんに視線を送りながら静かに飲んでいた。
何時間か過ぎ、カウンター席に座っているのが俺だけになると、
オヤジさんは奥に用意してある丸椅子に腰をかけ小さく一つ息を吐いた。
「今日は随分人が入りましたね」
会計をして出ていった客の背中を眺めながら俺が口を開くと、
「ああ。珍しいな」
疲れた声でオヤジさんが頷いた。
コミヤに3杯目のビールを頼んだ俺は、カウンターに肘をついた。
自然にため息が漏れる。
そんな俺の様子をじっと見ていたオヤジさんがゆっくりと口を開いた。
「この前、お前の友達来ていったぞ」
「圭吾ですか」
「いや、女友達のほうだ」
「え?」
てっきり圭吾だとばかり思っていた俺は面食らった。
「女って……奈巳、ですか?」
「名前はわからんが、3人で集まるときに来てた子だよ」
「……」
やっぱり奈巳だ。
「圭吾とですか?」
「いや、ひとりだった」
「ひとり?」
「ああ」
俺は口をつぐんだ。
同時に奈巳の顔がはっきりと浮かんでくる。
「何かあったのか? お前たち」
「え?」
「その子な、別に飲みに来たわけでもなかったようだったぞ」
オヤジさんの顔が薄く曇った。

