彼女を救うことが目的だった。

 心の闇を取り払って、止まった時間から抜け出せるように。


 俺の時間は動き出した。

 小川さんとの出会いによって。


 それと同じように、彼女の時間も引き戻したかった。

 今、現実に流れているこの時間の中に。


 それにはまず、彼女をあの場所へ行かせないことが先決だった。

 そこに通う以上、小川さんの時間は何をしていても動きださないからだ。


 けれど俺の心配をよそに、その日からずっと雨は降らずにいた。

 蒼い雨粒を散らしたような小川さんの傘は、玄関の横にひっそりと立てかけられたままだ。



 その時の俺は、

 神というものが本当にいるのならば、

 自分の願いが少しでも天に届いているのだという気持ちにさえなっていた。