「雨の日に、美咲が何かしてるのか?」

「……いえ。何でもありません」


 俺は彼から視線を逸らしてうつむいた。

 飯島さんは首をかしげている。


 小川さんが雨の日の歩道橋に立つことは、言わないでおくことにした。

 あの場所から小川さんを救い出すのは、自分でありたいと思ったからだ。

 それはたぶん、傲慢な考えだったのかもしれない。

 けれど俺は、本気でそう思っていた。


 グラスに残っている酒を飲み干し、二杯目を頼んだ。

 今度は飯島さんとは別の酒を。


「俺が……彼女を救ってみせます」


 言うと、彼はこちらをじっと見た。


「毎日会いに行きます。時々じゃなく。毎日。彼女が変な事をしないように」

「毎日?」

「はい」

「君が、美咲を救うって?」

「はい」


 飯島さんは苦笑している。


「どんなに時間が経っても美咲はあのままだよ。俺がいくら頑張っても駄目なんだ。
それを君がどうにか出来るとは思えないけどな」

「それでも……いえ、やってみせます」


 そっか、飯島さんはそう呟いて、困ったような呆れたような笑顔でグラスを傾けた。


 横顔に、仕事のせいなのか、それとも彼女のせいなのか、疲れた色が滲んでいる。


 俺よりもずっと長い時間、彼は苦しんできたのだ。

 自分に何ができのかは分からない。


 けれど―――