「仕事で悩んでたんだ、あいつ。仕事のことだけだったらこんなことにならなかったのかもしれないけど、金の面でもいろいろあってね。

本当に優しいやつで頼まれれば断れないようなところがあったから、同僚の借金の連帯保証人にもなっていたみたいでさ。

馬鹿だよな。多額の借金するやつなんて返せる見込みがないのに。それでもあいつは信用して判子を押しちまったんだよ。

当然、和也のところにも取立てが来るようになってね。それが日増しに酷くなっていったんだ」


 タバコを消した飯島さんは、すぐに次のタバコに火をつけた。

 タイミングを同じにして、俺も一口グラスを傾けた。


「もっともこれは和也が死んでからその両親に聞いた話だ。詳しいことはよく分からない。

自殺しようと思うまでに追い込まれた気持ちなんていうのは……その辛さは本人にしか分からないからね。俺たちが理解できるものじゃないんだ。

仕事とか金とか、いろいろ重なりすぎたんだろう。そしてこれから先のことも。

俺や美咲の前ではそんなこと微塵も態度に表さなかったけどね。いつものように笑って、いつものように気のいいやつだった。なのに突然……。

……どうして相談してくれなかったんだろうって思うよ。もしかしたら何かしら手が打てたかもしれないのに」


 グラスのなかの氷がからりと音を立てた。

 液体には店の弱い灯りが反射して、表情のない俺の顔が映りこんでいる。


 飯島さんはそこで言葉を区切り、静かに煙を吐き出した。

 目だけが時々空中を彷徨って、断片的な過去をかき集めているような感じだった。