ホッケを箸の先で突きながら、圭吾の話が始まった。

 圭吾の話なんていうものは、殆どがどうでもいいことだったりする。


 テレビ番組のこと、お笑い芸人の今後についての心配。

 そんな話から始まって、大抵今通っている大学の話にたどり着く。


 レポートのこと、気の合わない友人のこと、

 サークル内でのいざこざ、その他諸々。


 俺は決まってテーブルに頬杖をつきながらそれを聞く。

 半分はそれなりに聞いて、あとの半分は受け流す。

 まともに聞いてたら頭が痛くなる。

 そのくらい、圭吾の話はひっきりなしに続く。


「何だか俺、眠くなってきたんだけど」


 圭吾の話が少し途切れたところでぽつりと呟いてみた。


「早いって。まだまだこれからだろ」

「お前みたいにお気楽な学生じゃねーんだよ、俺は」

「…やめなきゃ良かったのに」


 空になったグラスをテーブルに置きながら、今度は圭吾が小さく呟いた。


「…いや、やめて正解だったし」

「そうか?」

「そう」

「今の生活が? 大学通うより楽しいのか?」

「楽しくはねーよ。毎日何にもねーし」

「あのまま通ってればそれなりに楽しめたんじゃねーの、大学」

「んなことねーよ。やりたいことも成りたいものもねーのに無駄に学費払って行く必要もねーだろ、大学なんて」

「まあな。そうかもしんねーけどさ」


 圭吾は赤い顔をしながら軽くため息をついた。

 どう見ても似合わない姿だ。


 圭吾は圭吾で俺のことを心配してくれてるんだろう。

 こうやって週末ごとに飲みに誘ってくるのも、きっとそのせいだ。

 それは、素直にありがたい。


「ま、その話はもういいだろ。ホッケ、もうなくなってるぞ。いつまで突いてんだよ」

「あ、ホントだ。オヤジさーん、軟骨とつくね2本ずつ! あとウーロンハイね」


 はいよっ、壁の裏側からオヤジさんの声がする。

 今夜はあと何時間つき合わされるのか。

 ため息をつき飽きた俺は、苦笑いをしながら二杯目のビールを飲み干した。