こんな雨の中で、立ち止まったまま君は


 その日バイトが終わると、圭吾から電話がきた。


「ちょっと出てこいよ」


 電話の向こうの圭吾の声は、いつもよりも格段に低かった。


 オヤジさんの店につき、のれんをくぐると、

 圭吾は奥のテーブル席にいた。


「今日はアイツ、大人しいな」


 オヤジさんが苦笑している。

 圭吾がどうして俺を呼んだのか、検討はついていた。

 なので俺もオヤジさんの顔に苦笑を返してから、圭吾の座るテーブル席へ向かった。


 コミヤからおしぼりを受け取り、ビールを頼んで、「よう」と声をかけるとようやく圭吾の顔が持ち上がった。


「付き合うことにしたんだって?」


 第一声がそれだった。

 やっぱり、奈巳から聞いたのだ。

 今日、大学で話したんだろう。


「聞いたのか、奈巳に」

「ああ」

「じゃあ、そのままだよ。付き合うことにした」


 運ばれてきたビールに口をつける。

 圭吾はじっとこちらを見ていた。

 下がり気味の目には、いつもの陽気さが現れていない。

 代わりに、疑うような、訝しがるような、険しさの滲む表情で俺の動きを追っている。


「本気じゃねーんだろ?」


 テーブルに置いた自分のビールに手をかけて、圭吾がぼそりと呟いた。

 俺が言葉を返せずにいると、


「話してた……あの女の人はどうなったんだよ。お前、好きだったんじゃねーの?」


 俺の返事を待っている。

 瞳には、鋭さが混じっていた。