「な…に…?」


 俺の膝の上で奈巳は、驚いて目を見開いている。

 その顔を見下ろしながら、俺は何も言えなかった。

 何がしたいのか、自分でもわからなかったのだ。

 ただ、混乱していた。

 さっきまでの出来事と、今ここにいる、奈巳の柔らかい体に。


「淳…?」


 小さく呟く奈巳の頬に触れると、何故だか胸が押し潰されそうになった。

 沸々と、何かが込み上げてくる。


 親指で唇に触れると、奈巳の体はびくんと反応した。

 何も言えない俺に、奈巳のほうも黙ったままで、じっと俺の目を見つめていた。



 体を屈めて、その唇にキスをした。

 奈巳はじっとしたまま動かない。


 そのまま俺は、奈巳を抱いた。

 無我夢中という言葉に近いくらい、何も考えていなかった。


 奈巳は全然抵抗しなかった。

 ただ俺の動きに合わせて、ラグの上で小さな声を上げていた。


 俺は夢中で奈巳を抱き続け、そしてそのまま奈巳の部屋に泊まった。

 隣りで眠る奈巳の肩に触れる。

 小さくて丸い。

 そして、小川さんと同じような白さだ。


 眠る前、冷静になった俺が謝ると、奈巳は首を横に振った。


「いいの」


 と言って。


 それはいつか俺が小川さんから聞いた言葉と同じものだった。

 けれど、意味は違っていた。


「淳のことが好きだったの。だからいいの」


 その言葉を聞いて、俺は何か大きな過ちを犯したような気持ちになった。

 後悔した。何てことをしてしまったのだろうと。


 けれど、こうして隣りで眠る柔らかい体を包んでいると、

 自分勝手だと言われればそれまでだけれど、ものすごく安心する。


 次の日の朝、俺は曖昧な返事をして結局奈巳と付き合うことにした。

 付き合う、ということがどういうことなのか、久方振りの事に忘れていた。


 もう、どうでもいい。

 そんな感情のほうが先に立っていた。