ここは小川さんの部屋だ。
当然、彼女が出てくるものだとばかり思っていた俺は驚いた。
「あの……」
飯島さんの顔を眺めたまま動けずにいる俺に、
「とりあえず、上がる?」
ちらりと中を振り返った飯島さんは言った。
何か躊躇っている、そんな表情で。
彼はTシャツ姿だった。
ダウンジャケットを着こんでいても寒さを感じている俺の目には、
彼のその格好は奇妙なものに映った。
飯島さんは髪をかき上げながら俺の返事を待つように首をかしげている。
その顔に頷いてから、
俺は、訳が分からないまま靴を脱いだ。
スニーカーは雨で湿っている。
靴下の先が凍えていた。
前に見える飯島さんの足は裸足だった。
俺が靴を脱ぎ終わるのを確認した飯島さんは、先に部屋に戻っていった。
後に続いて、薄暗い部屋に静かに足を踏み入れた。
明かりは半分以上落とされていて、音のしないテレビ画面だけが煌々と光っている。
ソファの背には、飯島さんの物と思われる男物のシャツとネクタイがかけられていた。
クッションの上に、淡いクリーム色のカーディガンが乗っている。
小川さんの物だ。図書館で、よく目にしていた。
何気なくベッドの方に視線を移すと、
床に落ちたグレーのスカートが目に入った。
テレビの明かりは、暗転を繰り返している。
音の無いままで。
ひときわ明るい光が部屋を照らした時、
布団の中にいる、小川さんの白い肩が浮かび上がった。
俺はまばたきも忘れて、
その白くて細い肩を呆然と眺めていた。

