ソファに座ったまま、何分過ぎただろうか。
無言の時間が静かに流れて、気づくと小川さんの寝息が耳元で聞こえていた。
肩に、小川さんの重さが寄り添っている。
俺は彼女を起こさないようにそっと立ち上がり、
ベッドルームから持ってきた毛布をそっと掛けた。
疲れきったような、あるいは安心しきったような、
園児の昼寝のように無垢な寝顔をした小川さんの頬には乾いた涙の痕が残っている。
『一度眠ると、なかなか起きないんだよな』
ふと、飯島さんの言葉を思い出した。
彼の言葉が確かなら、小川さんはこのまま朝まで目を覚まさないかもしれない。
そういえば、飯島さんはどうしているのだろう。
あれから彼のことは見ていない。
もっとも、俺が小川さんの部屋に来るのはこれが二回目なのだから、
飯島さんに会う機会などないのだが。
彼と駅で別れた夜を刹那思い出したけれど、
視線と思考はすぐに隣りの小川さんへ戻っていた。
僅かに開いた唇。
そこに、自分の唇が触れたのだ。
いきなり……何てことをしてしまったのだろう。
無意識のうちに動いてしまった自分の体を止めることができなかった。
彼女の泣き顔をただ黙って見ているのが辛くて、
どうしようもなく溢れてくる感情を抑えられなかった。
許すとか許さないとか、そんな次元ではないキスの後の彼女の態度に、
助けられた…と思っていればいいのだろうか。
複雑な気持ちだった。
小川さんの涙の理由は分からない。
映画の内容によるものなのか、それとも、もっと別のものなのか。
飯島さんを真似るように、そっと彼女の髪を撫でた。
ゆっくり、ゆっくり。
動物園で触れることの出来なかったその髪は、
柔らかいというよりもしなやかな感触だった。
小川さんの顔にかかった髪を耳にかけてやりながら、
しばらくの間、俺は彼女の寝顔を見つめていた。

