一時間くらい経ったところで、
もう一回りして帰りましょうか、と小川さんが立ち上がった。
はい、と返事をして、俺も腰を上げかけたときだった。
顔を覆った小川さんの体がふらふらと左右に揺れているような気がして中腰のまま見ていると、
彼女の体はバランスを崩すようにしてそのまま前かがみに倒れそうになった。
「あっ…」
と声を出すか出さないかのうちに俺の腕は彼女へ伸びていた。
小川さんの膝が折れる直前で、間に合った。
後ろから抱きかかえるようにして支えた腕に、彼女の体重が掛かる。
「大丈夫ですか?」
両腕で支えたけれど、小川さんの腰は片手に十分に納まってしまうくらい細い。
「うん…平気」
小川さんは小さく答えたけれど、
息を整えるように苦しげな呼吸が、回した腕に伝わってきた。
「ちょっと貧血みたい。ごめんね」
ゆっくり体を起こした彼女の肩に手をかけて、その体を支えた。
腕の中の小川さんは、小さな呼吸を繰り返している。
口元に当てた指先は少しだけ震えていた。
どうしたらいいのか分からず、とりあえず俺は彼女をもう一度ベンチに座らせた。
彼女の顔は、いつものように白くなっている。
「そういえば薬忘れちゃった」
困ったように微笑んだ小川さんは、ふうっと息を吐いた。
「薬?」
「うん、風邪薬みたいなもの」
「…やっぱりまだ本調子じゃないんですか?」
「ううん、全然平気だったんだけど。困ったな」
腕に感じた彼女の細さを思いながら、しばらくその様子を見守っていたけれど、
彼女の顔色はなかなか戻らなかった。
このまま寒空の下にいたのでは悪化するだけだろう。
大丈夫という彼女を説得して、俺たちは動物園を出た。
駅までの道、小川さんの体はずっと俺に寄り添っていた。
本来ならば嬉しいはずのその状態に、けれど俺は彼女がこのまま本当に倒れてしまうのではないかと、彼女の部屋に着くまでずっと不安だった。