電車を降りて動物園のゲートをくぐると、

 ジワジワと生き物の匂いに包まれて、一気に幼い頃に引き戻されるような気がした。


 小川さんも同じだったらしい。

「わあ…」と感嘆の声を上げる横顔が、電車の中よりもキラキラしている。


 今日の小川さんは、黒い短めのコートを羽織っていて、チェック柄のスカートに赤茶色のブーツを履いている。

 それがとてもよく似合っていて、照れくさかった。


 落ち着いた黒だと思っていた彼女の髪は、

 少し高い位置に昇った太陽に照らされて茶色に透けて見える。


 柔らかく光るその髪に触れてみたい、何て思いながら、

 いつもとは違う印象の小川さんの後に続いて園内を歩いた。




 雨と夜―――


 およそ太陽とは縁遠い場所でばかり顔を合わせていた俺と小川さんが、

 こんなふうに日中の光の中を歩いているのが不思議だった。


 こういうのを、似つかわしくない、と言うのだろうか。


 けれど、こうして見る小川さんも、もちろん彼女そのものなのだ。

 夜と雨の中に儚く立つ小川さんも、

 こうして目を輝かせて動物を見ている少女のような彼女も。


 金網に手をかけて背伸びをする小川さんの無邪気な表情を見ながら、

 人を外見では判断できないな、としみじみ思った。


 それは、田中に関しても。

 もしかしたら、圭吾に対しても。


 環境と先入観が自分勝手にその人のイメージを造り上げてしまう。

 何処かで聞いたようなその言葉の意味も、今なら何となく分かる気がした。