外は既に真っ暗だった。
空には星が浮かんでいる。
辺りに高いビルが無いせいだろうか。
星の形はくっきりと良く見えていた。
雨の降る気配はない。
駅前へ続く細い道を、彼と二人で歩いた。
冷たい風が時々強く頬を滑りぬけていって、
来た時よりも格段に低くなった気温に肩をすぼめた。
横目に映る彼の黒いコートの裾が風でめくれる度に、
その下の長い足を包んでいるグレーのパンツが見え隠れする。
暗闇でもはっきりと分かるくらいの仕立てのよさは、
俺よりも年上だろうということと、
俺よりも…ちゃんと社会に対応している大人なのだということを教えていた。
部屋の中ではよく分からなかった彼の身長も、
こうして並んで歩くとだいぶ高いことが分かる。
小川さんのアパートを出てから数分間、
少しだけ前を行く彼の後に続くような形で無言で歩いていたのだが、そろそろ居心地が悪くなってきたところで、
「いつから風邪ひいてたんだろう、彼女」
振り向いて、彼が呟いた。
やはり、大人の表情だった。
可も不可もない、至って普通の。
「前々から体調は悪かったみたいです。今日は仕事も休んだみたいで」
「そう」
「はい」
暗い道に、二人の白い息だけがぼうっと浮かび上がっている。
「彼女のアパートには良く行ってるの?」
細い目で、表情を変えない彼が続ける。
「いえ…今日が初めてです」
俺は軽く経緯を説明した。
する必要は無いかもしれなかったけれど、
何度も質問をされていると尋問を受けているような気分になって落ち着かない。
先に話してしまったほうがいいだろうという考えからそうしたのだけれど、
話してる間、別に彼は怒ったふうでも困ったふうでもなく、
頷きながら静かに俺の言葉に耳を傾けていた。

