晴れ渡る夜空。まだぼんやりと沈まない太陽の明かりが地球の肌に熱を残す。ふたりを照らして地面に影が伸びる。
「ねえ春見て、満月」
突拍子もなく璃来は太陽の反対方向から昇る月を指さす。上の空だった春も璃来の言葉に気を取り戻し、何も語らず璃来の指さす方向を見上げた。
地平線から顔を出した月が大気の屈折の影響でいつもより大きく見えふたりの瞳に映る。
「6月の満月、ストロベリームーンっていうんだよ」
「赤くなるから?…あれ、ぼやけちゃった」
レンズ越しに真っ白に光る月を見ながら春は璃来にそう尋ねる。
「ううん。イチゴの収穫時期だから」
「月と関係ないんだね」
ふふふ、と春は笑った。その手にはラッピングされた2本のピンク色の薔薇が握られていた。
その日、ふたりは警察の目の紛れる人気の多い複合施設に出向いていた。行方不明としてニュースに流れないのは、毎年多くの未成年が家出と称して行方不明になるから。自分の意思で居なくなった場合、事件性があると判断されないから。春の母親の場合はわからないが、まだ羽を伸ばせる暮らしはできていた。
その帰り道で見かけた小さな花屋に、春を店の前で待たせて璃来がこの花を春に贈った、という経緯だ。
どうしてこの花にしたのか春は璃来に訊ねると、その場では濁されたが、こうしてふたりでくじら公園のベンチに腰かけ空を見上げている時にふと、その意味を璃来は言葉にしたのだった。
「春はぼくの " 大切 " だから」
枯れた白い薔薇の花言葉は「生涯を誓う」。
白い薔薇の花言葉は「私はあなたにふさわしい」。
だけどそんなこと言えないから。
だけど、過ちだったなんて言いたくない。
ぼくたちのこの関係の名前は、「恋」がいい。
この花が枯れても、ずっと春を生涯好きでいさせて。
「ねえ春見て、満月」
突拍子もなく璃来は太陽の反対方向から昇る月を指さす。上の空だった春も璃来の言葉に気を取り戻し、何も語らず璃来の指さす方向を見上げた。
地平線から顔を出した月が大気の屈折の影響でいつもより大きく見えふたりの瞳に映る。
「6月の満月、ストロベリームーンっていうんだよ」
「赤くなるから?…あれ、ぼやけちゃった」
レンズ越しに真っ白に光る月を見ながら春は璃来にそう尋ねる。
「ううん。イチゴの収穫時期だから」
「月と関係ないんだね」
ふふふ、と春は笑った。その手にはラッピングされた2本のピンク色の薔薇が握られていた。
その日、ふたりは警察の目の紛れる人気の多い複合施設に出向いていた。行方不明としてニュースに流れないのは、毎年多くの未成年が家出と称して行方不明になるから。自分の意思で居なくなった場合、事件性があると判断されないから。春の母親の場合はわからないが、まだ羽を伸ばせる暮らしはできていた。
その帰り道で見かけた小さな花屋に、春を店の前で待たせて璃来がこの花を春に贈った、という経緯だ。
どうしてこの花にしたのか春は璃来に訊ねると、その場では濁されたが、こうしてふたりでくじら公園のベンチに腰かけ空を見上げている時にふと、その意味を璃来は言葉にしたのだった。
「春はぼくの " 大切 " だから」
枯れた白い薔薇の花言葉は「生涯を誓う」。
白い薔薇の花言葉は「私はあなたにふさわしい」。
だけどそんなこと言えないから。
だけど、過ちだったなんて言いたくない。
ぼくたちのこの関係の名前は、「恋」がいい。
この花が枯れても、ずっと春を生涯好きでいさせて。
