深夜の逃避行劇

ふたりは8月に入ってから夏休みをほぼ毎日、璃来の入試対策として図書館に開館から閉館まで入り浸っていた。


「璃来、そこはAを求めないとCが出せないよ」

「分かんない!もう、春の高校が偏差値高すぎるせいだー!」


やっとわかったんだ。
生まれてきた理由が。

大丈夫。大丈夫なんだ。
世界はきっと、大丈夫なようにできてるの。
確信なんて要らない。貴女が隣にいてくれるから。
私の、大丈夫でいてくれるから。


「 " 月が綺麗ね " 、璃来?」

「… " 月はずっと前から綺麗だったよ "、春。」


月も見えない真っ昼間にそんな事を言い合って。
顔を見合せて笑いながら、明るい世界を歩いてゆく。

もう朝が来るのが怖くなくなった。
ひとりで歩けるようになった。
でもまだ少し、足が竦んでしまう。
だけどそんな時は、必ず貴女が傍にいる。


「大好きだよ、春」

「…あー!!!私が先に言おうと思ったのに!!ずるい!」

「だって春、すごい言いたそうにするのに全然言わないんだもーん」

「もー!」

「ね、春は?」


春はやっと、璃来にずっと言いたかったことを言えるときが来た。

これは、貴女に出会うための物語だ。


「私も、璃来のことが大好きよ!!!」



そんな、夢を見ていた。