茜色に染まる美しいほどの夕暮れは、太陽が沈むと共に急速に色を失い始める。
璃来がくれた眩しすぎる光は、春ひとりでは背負いきれなかった。
璃来が色づけた世界なんて、璃来が居ない世界しかないのならもう灰色のままでいい。もう、春なんて二度と訪れなくても構わない。
ひとりでこの先の幸せを宛もなく探し続けるくらいなら、私は貴女と一緒に堕ちていくわ。
貴女と不幸になる以上の幸せは、私、知らないの。
「う゛、…ぁ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
息が酷く苦しい。手の震えが止まらない。耳鳴りの悪化に伴って頭痛が酷くなる。全身を冷や汗が伝ってゆく。
過呼吸を引き起こし地面に崩れ落ち、胸に両手を押し付けて無理矢理落ち着かせようとしても余計に心は荒んでゆくばかりだった。
コンクリートは酷く冷たく、触れた場所から熱を奪う。
「やめなさい。恥晒しもいいとこよ」
頬をひっぱたかれた衝撃を受ける。
春が顔を上げると、目の前に春の母親が立っていた。呆れたように頭を抱え、春の二の腕を掴み家に連れ帰ろうと車に引きずりこむ。
歯車は正常に回り出した。春をひとり置き去りにして。
***
「…………」
体に重力が重くのしかかる。床に這いつくばったまま起き上がることができない。
療養中に世間は夏休み一色で、つけっぱなしのテレビから楽しそうにテーマパークではしゃぐ子どもの様子がリポートされていた。
外はこんなにも快晴なのに、あの日から春は涙が止まらなくなってしまった。
ご飯も食べなくなった春を母親は病気だ、クズだゴミだと散々罵った。翌朝の春の身体には真新しい痣が増えた。
それでよかった。どうでもよかった。
『_続いてのニュースです。およそ80年の歴史に幕、船乗りたちの道標として活躍した金星の塔が、急遽明日取り壊されることが発表されました。…__』
こんな高い場所では蝉の鳴き声すら聞こえず、やけに時計の秒針を刻む音が大きく聞こえる。
「なんだ、初めからこうすればよかったんだ」
ゆらりと立ち上がった春はふらつきながらキッチンへ行き、包丁を持ち出した。
ほとんど家事をしないくせに持ち物だけはいいものを揃えている。これも見栄のひとつだ。
あまりに可笑しくて笑いがこみあげてくる。
母親の本性が最初から周りに見透かされていたことにも、それなのに誰も春を助けてくれなかったことにも。
見栄を張るための道具で娘が死ぬなんて、とんだ茶番だね。
死ぬのが怖かった春はもうここにはいない。
何の躊躇いもなく春は腹部に刃先を突き刺した。確実に死ぬまで何度も刺した。全身に力が入らなくなりその場に崩れ落ちた。
春は泣きながら笑っていた。
璃来がくれた眩しすぎる光は、春ひとりでは背負いきれなかった。
璃来が色づけた世界なんて、璃来が居ない世界しかないのならもう灰色のままでいい。もう、春なんて二度と訪れなくても構わない。
ひとりでこの先の幸せを宛もなく探し続けるくらいなら、私は貴女と一緒に堕ちていくわ。
貴女と不幸になる以上の幸せは、私、知らないの。
「う゛、…ぁ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
息が酷く苦しい。手の震えが止まらない。耳鳴りの悪化に伴って頭痛が酷くなる。全身を冷や汗が伝ってゆく。
過呼吸を引き起こし地面に崩れ落ち、胸に両手を押し付けて無理矢理落ち着かせようとしても余計に心は荒んでゆくばかりだった。
コンクリートは酷く冷たく、触れた場所から熱を奪う。
「やめなさい。恥晒しもいいとこよ」
頬をひっぱたかれた衝撃を受ける。
春が顔を上げると、目の前に春の母親が立っていた。呆れたように頭を抱え、春の二の腕を掴み家に連れ帰ろうと車に引きずりこむ。
歯車は正常に回り出した。春をひとり置き去りにして。
***
「…………」
体に重力が重くのしかかる。床に這いつくばったまま起き上がることができない。
療養中に世間は夏休み一色で、つけっぱなしのテレビから楽しそうにテーマパークではしゃぐ子どもの様子がリポートされていた。
外はこんなにも快晴なのに、あの日から春は涙が止まらなくなってしまった。
ご飯も食べなくなった春を母親は病気だ、クズだゴミだと散々罵った。翌朝の春の身体には真新しい痣が増えた。
それでよかった。どうでもよかった。
『_続いてのニュースです。およそ80年の歴史に幕、船乗りたちの道標として活躍した金星の塔が、急遽明日取り壊されることが発表されました。…__』
こんな高い場所では蝉の鳴き声すら聞こえず、やけに時計の秒針を刻む音が大きく聞こえる。
「なんだ、初めからこうすればよかったんだ」
ゆらりと立ち上がった春はふらつきながらキッチンへ行き、包丁を持ち出した。
ほとんど家事をしないくせに持ち物だけはいいものを揃えている。これも見栄のひとつだ。
あまりに可笑しくて笑いがこみあげてくる。
母親の本性が最初から周りに見透かされていたことにも、それなのに誰も春を助けてくれなかったことにも。
見栄を張るための道具で娘が死ぬなんて、とんだ茶番だね。
死ぬのが怖かった春はもうここにはいない。
何の躊躇いもなく春は腹部に刃先を突き刺した。確実に死ぬまで何度も刺した。全身に力が入らなくなりその場に崩れ落ちた。
春は泣きながら笑っていた。
