山奥ともいえるほど人の手の届かない場所でふたりは金星の塔を目指して歩いていく。
想定より足場が悪く、視界の四方八方が同じ景色のため右も左も分からずどの方角へ進んでいるかも正直定かではなかった。
そんな中でも時折木々の隙間から覗くあの強い光を目印に進み続ける。ぬかるんだ土は砂浜に足が埋まるように足取りは重く、泥が跳ねて靴は真っ黒だった。
相も変わらず雨が降り続いている。昼間よりその勢いを増し、時折空がきら、と光り、数秒遅れて雷鳴が轟く。葉から落ちた雫がぼたぼたと地面に大量の音を奏でる。
ふたりの地面を踏みしめる足は一向に覚束無かった。外灯の一切ない山の中で、ふたりの道標は老爺に貰った早くも切れかけの電池式懐中電灯だけが照らしている。
ぶわっと強い突風が木々の隙間をすり抜けふたりを襲った。煽られた傘が璃来の手から離れ宙を舞い、木の枝につっかかる。
ほとんど意味のなかった傘をようやく理由をつけて手放すことができた。
傘が飛んだ拍子に上を見上げたふたりは空に光る物体を見つける。ヘリコプターだった。森の上空を執拗に飛んでいるそれはいわずとも分かるだろう。
少し後ずさった璃来の足に硬い何かが当たる。拾い上げたそれは錆びついて間もない手錠だった。
「なんでこんなとこに…?」
「_そうだ、見てて」
璃来はふとそれを拾い上げ、ふたりの手首に繋がれた。
「これでぼくたちは永遠に離れることなんてないよ。ほら、行こう!」
傘のなくなったふたりは満を持して手を繋ぐ。
山道をぱしゃぱしゃと走ってゆく。雨音に紛れて頭上をヘリコプターが飛んでいるプロペラの音が不安の音を煽ってゆく。
塔の明かりの位置が徐々に高くなり距離が近づいてゆく。金星の塔はもう目の前に迫っている。
鍵のかかったドアを見越してポケットから針金を取り出した璃来はものの数分で解錠に成功し、塔の中へ入る。もう動かないエレベーターを素通りし螺旋階段を駆け上がってゆく。
階段の途中の小さな小窓から雷光が刺さり、雨が打ち付けている。
「っあ"、ッ___、!」
階段の途中で璃来が躓き、足を滑らせた。
咄嗟に手すりを掴んだ春により大事には至らなかったが、躓いた拍子に璃来は足を痛めた。
だがそれさえ気づかないほど心身ともに追い込まれており、歩きづらいとしかもはや認識できない足を半ば引きずりながらふたりはビルの15階に相当する最上階の展望デッキへ辿り着いた。
だが少し時間がかかりすぎたせいか、塔の1階から追っ手の声が聞こえ始めている。疲れ果ててその場でしゃがみこんだ。その足は糸が切れたようにもう動かない。
想定より足場が悪く、視界の四方八方が同じ景色のため右も左も分からずどの方角へ進んでいるかも正直定かではなかった。
そんな中でも時折木々の隙間から覗くあの強い光を目印に進み続ける。ぬかるんだ土は砂浜に足が埋まるように足取りは重く、泥が跳ねて靴は真っ黒だった。
相も変わらず雨が降り続いている。昼間よりその勢いを増し、時折空がきら、と光り、数秒遅れて雷鳴が轟く。葉から落ちた雫がぼたぼたと地面に大量の音を奏でる。
ふたりの地面を踏みしめる足は一向に覚束無かった。外灯の一切ない山の中で、ふたりの道標は老爺に貰った早くも切れかけの電池式懐中電灯だけが照らしている。
ぶわっと強い突風が木々の隙間をすり抜けふたりを襲った。煽られた傘が璃来の手から離れ宙を舞い、木の枝につっかかる。
ほとんど意味のなかった傘をようやく理由をつけて手放すことができた。
傘が飛んだ拍子に上を見上げたふたりは空に光る物体を見つける。ヘリコプターだった。森の上空を執拗に飛んでいるそれはいわずとも分かるだろう。
少し後ずさった璃来の足に硬い何かが当たる。拾い上げたそれは錆びついて間もない手錠だった。
「なんでこんなとこに…?」
「_そうだ、見てて」
璃来はふとそれを拾い上げ、ふたりの手首に繋がれた。
「これでぼくたちは永遠に離れることなんてないよ。ほら、行こう!」
傘のなくなったふたりは満を持して手を繋ぐ。
山道をぱしゃぱしゃと走ってゆく。雨音に紛れて頭上をヘリコプターが飛んでいるプロペラの音が不安の音を煽ってゆく。
塔の明かりの位置が徐々に高くなり距離が近づいてゆく。金星の塔はもう目の前に迫っている。
鍵のかかったドアを見越してポケットから針金を取り出した璃来はものの数分で解錠に成功し、塔の中へ入る。もう動かないエレベーターを素通りし螺旋階段を駆け上がってゆく。
階段の途中の小さな小窓から雷光が刺さり、雨が打ち付けている。
「っあ"、ッ___、!」
階段の途中で璃来が躓き、足を滑らせた。
咄嗟に手すりを掴んだ春により大事には至らなかったが、躓いた拍子に璃来は足を痛めた。
だがそれさえ気づかないほど心身ともに追い込まれており、歩きづらいとしかもはや認識できない足を半ば引きずりながらふたりはビルの15階に相当する最上階の展望デッキへ辿り着いた。
だが少し時間がかかりすぎたせいか、塔の1階から追っ手の声が聞こえ始めている。疲れ果ててその場でしゃがみこんだ。その足は糸が切れたようにもう動かない。
