目的地まで残り10キロ地点で、ようやくふたりは八江町に入る。
景色は一気に建物が減り、山の凹凸に沿って作られた道路はどこも波打って急勾配だ。道路のコンクリートはところどころがひび割れ、長く整備されていないことがうかがえる。
畑の通りを過ぎ、無人の野菜直売所を通り過ぎ、車のほとんど通らない交差点で信号待ちをして。
少し離れたところにこの町唯一の小学校があり、そこのグラウンドから元気な声が聞こえてくる。
住宅地を抜け、入り組んだ道の塀の上を通る黒猫とすれ違い、小川を渡り、また畑を横切り。
田舎が珍しいのか春は要所要所で首から下げているカメラのシャッターを切る。放置された畑には取り外された浴槽や三輪車なんかが捨てられていた。
それからまっすぐ道を進んだところの高速道路に出る手前の道路を挟んだ空き地には、ドアのない小さな小屋の中にたくさんの種類の自動販売機と一日三回しかバスが来ない小さな小屋のバス停が並ぶ。
小屋の中には机があり、その机の上にはいろんな人がここを訪れた記録を残した使い古された一冊のノートとペンが置かれている。この田舎の地の唯一の観光名所だ。
ジュースにお菓子に、あたたかいご飯に。自販機で売るには珍しいものが並んでいた。
食べたくなかったはずなのに、目の前に出された湯気の立ちのぼるご飯を璃来によって一口無理矢理口に突っ込まれてから、春は口に運ぶ手は止まらず味わう余裕もなくひたすら胃に入れた。
きっとこれが恐らく、ふたりの最後の晩餐だ。なのにまだ、春の心は当たり前に明日にある。
本能が生きたいと訴える。
死にたくないと訴える。
春の瞳に光を与えたのは璃来だ。春の壊した人生の歯車を再び回し始めたのは璃来だ。
璃来に課せられた選択は背負うか壊すかの二択であり、その責任を放棄することは決して許されない。
気づけばまた止まったはずの涙が頬を伝う。
傷が痛むせいなのか、心が痛むせいなのか。春はもうここ最近は何に対して泣いているのかよくわからなかった。
それは明滅する切れかけの外灯のように。はたまた、いつ壊れてもおかしくない古びたオルゴールのように。
だけどそれでもなお春の中の璃来が死にゆく足を踏みとどまらせる。
春の幸せを願い続ける。
自身の心の中に宿る璃来を春は殺すことができなかった。
春が死んだら、この世界での璃来は二度の死を遂げるのだ。
春が璃来を再び殺すのだ。
なら、初めから一緒に死ねばよかった。
景色は一気に建物が減り、山の凹凸に沿って作られた道路はどこも波打って急勾配だ。道路のコンクリートはところどころがひび割れ、長く整備されていないことがうかがえる。
畑の通りを過ぎ、無人の野菜直売所を通り過ぎ、車のほとんど通らない交差点で信号待ちをして。
少し離れたところにこの町唯一の小学校があり、そこのグラウンドから元気な声が聞こえてくる。
住宅地を抜け、入り組んだ道の塀の上を通る黒猫とすれ違い、小川を渡り、また畑を横切り。
田舎が珍しいのか春は要所要所で首から下げているカメラのシャッターを切る。放置された畑には取り外された浴槽や三輪車なんかが捨てられていた。
それからまっすぐ道を進んだところの高速道路に出る手前の道路を挟んだ空き地には、ドアのない小さな小屋の中にたくさんの種類の自動販売機と一日三回しかバスが来ない小さな小屋のバス停が並ぶ。
小屋の中には机があり、その机の上にはいろんな人がここを訪れた記録を残した使い古された一冊のノートとペンが置かれている。この田舎の地の唯一の観光名所だ。
ジュースにお菓子に、あたたかいご飯に。自販機で売るには珍しいものが並んでいた。
食べたくなかったはずなのに、目の前に出された湯気の立ちのぼるご飯を璃来によって一口無理矢理口に突っ込まれてから、春は口に運ぶ手は止まらず味わう余裕もなくひたすら胃に入れた。
きっとこれが恐らく、ふたりの最後の晩餐だ。なのにまだ、春の心は当たり前に明日にある。
本能が生きたいと訴える。
死にたくないと訴える。
春の瞳に光を与えたのは璃来だ。春の壊した人生の歯車を再び回し始めたのは璃来だ。
璃来に課せられた選択は背負うか壊すかの二択であり、その責任を放棄することは決して許されない。
気づけばまた止まったはずの涙が頬を伝う。
傷が痛むせいなのか、心が痛むせいなのか。春はもうここ最近は何に対して泣いているのかよくわからなかった。
それは明滅する切れかけの外灯のように。はたまた、いつ壊れてもおかしくない古びたオルゴールのように。
だけどそれでもなお春の中の璃来が死にゆく足を踏みとどまらせる。
春の幸せを願い続ける。
自身の心の中に宿る璃来を春は殺すことができなかった。
春が死んだら、この世界での璃来は二度の死を遂げるのだ。
春が璃来を再び殺すのだ。
なら、初めから一緒に死ねばよかった。
