何かから逃げるようにふたりは会話もせず歩き続け、電話が終わってから今の今まで50キロ近く進んでいた。
今まで歩いた総距離は140キロにまで達する。南に向かって歩いてきたふたりは海が見える道まで出てきていた。
痛めた足を完治させず酷使したツケがきてしまった。一歩歩くごとに鈍い痛みが走り、真っ直ぐ立っていることさえもうままならない。
それでも勝手に足は動いて立ち止まる術はない。心は折れてボロボロなのに、脳が足に止まるなと警鐘を鳴らすせいで春は先程から泣きそうな顔で歩いていた。
璃来は春が壊れてしまうくらいなら少しでも繋ぎとめていたいなんて身勝手な思いが先行してしまい " 休もう " なんて言葉も労いもひと言もかけられなかった。ただ固く繋いだ手だけは絶対に離さなかった。
春は今までの居場所を捨て、少しでもあの場所から遠ざかろうと必死だった。
「う…うっ…、、」
春は嗚咽を漏らしながら歩き続ける。
ぼたぼたと溢れる涙は止まらず、視界は滲み、前はもう暈ぼやけてまともに見える状態ではなかった。
大切過去を失って崩れていくこの感覚が嫌いだ。
世界が春を置き去りにして、春だけを取り残して。
海沿いの防波堤の上に造られた道を歩く。
昨日から自販機で買った水分とたまたま並んでいた栄養補助食品しか食べていない。お腹はすいているはずなのに、今は何も食べられそうにない。
繋いだ手の温もりが今は何よりも愛おしい。
この手だけは信じていられる。春を見捨てない。
その希望だけが唯一春を繋いでいる。
春は冬を耐え忍ぶ強さを持っている。春は世界心を暖かくする力がある。
自分に言い聞かせるように春は大丈夫を繰り返して涙を拭う。
やがて地平線がほのかに縁取る。海と空の狭間が色づいてゆく。
夜明けを目前にした空は雲を退のけ、雨上がりの空は朝を連れてくる。
「もう、迷わない。ちゃんとする。ちゃんと、見る」
「…うん。分かった。ぼくは春の意思を尊重するよ」
朝が来る。白み始めた薄明の空に目映い朝日が昇りはじめ、地平線が赤く染まり空にグラデーションを創り出す。ブルーアワーが世界に朝を告げる。
感嘆の声を漏らす春の瞳は日の光を浴びて光り輝く。璃来はそっと呟いた。
「もう朝だね」
もう、灰色に映らない。
春の視界に広がるのは、どこまでも透き通って透明な、鮮やかな世界。
あぁ、そうか。これが幸せなんだ。
幸せを知って不安で堪らなくなって、春の視界がまた滲む。
少し怖くなって、自分を誤魔化すために無理やり口角を上げる度にもっと涙が溢れてしまう。
今まで歩いた総距離は140キロにまで達する。南に向かって歩いてきたふたりは海が見える道まで出てきていた。
痛めた足を完治させず酷使したツケがきてしまった。一歩歩くごとに鈍い痛みが走り、真っ直ぐ立っていることさえもうままならない。
それでも勝手に足は動いて立ち止まる術はない。心は折れてボロボロなのに、脳が足に止まるなと警鐘を鳴らすせいで春は先程から泣きそうな顔で歩いていた。
璃来は春が壊れてしまうくらいなら少しでも繋ぎとめていたいなんて身勝手な思いが先行してしまい " 休もう " なんて言葉も労いもひと言もかけられなかった。ただ固く繋いだ手だけは絶対に離さなかった。
春は今までの居場所を捨て、少しでもあの場所から遠ざかろうと必死だった。
「う…うっ…、、」
春は嗚咽を漏らしながら歩き続ける。
ぼたぼたと溢れる涙は止まらず、視界は滲み、前はもう暈ぼやけてまともに見える状態ではなかった。
大切過去を失って崩れていくこの感覚が嫌いだ。
世界が春を置き去りにして、春だけを取り残して。
海沿いの防波堤の上に造られた道を歩く。
昨日から自販機で買った水分とたまたま並んでいた栄養補助食品しか食べていない。お腹はすいているはずなのに、今は何も食べられそうにない。
繋いだ手の温もりが今は何よりも愛おしい。
この手だけは信じていられる。春を見捨てない。
その希望だけが唯一春を繋いでいる。
春は冬を耐え忍ぶ強さを持っている。春は世界心を暖かくする力がある。
自分に言い聞かせるように春は大丈夫を繰り返して涙を拭う。
やがて地平線がほのかに縁取る。海と空の狭間が色づいてゆく。
夜明けを目前にした空は雲を退のけ、雨上がりの空は朝を連れてくる。
「もう、迷わない。ちゃんとする。ちゃんと、見る」
「…うん。分かった。ぼくは春の意思を尊重するよ」
朝が来る。白み始めた薄明の空に目映い朝日が昇りはじめ、地平線が赤く染まり空にグラデーションを創り出す。ブルーアワーが世界に朝を告げる。
感嘆の声を漏らす春の瞳は日の光を浴びて光り輝く。璃来はそっと呟いた。
「もう朝だね」
もう、灰色に映らない。
春の視界に広がるのは、どこまでも透き通って透明な、鮮やかな世界。
あぁ、そうか。これが幸せなんだ。
幸せを知って不安で堪らなくなって、春の視界がまた滲む。
少し怖くなって、自分を誤魔化すために無理やり口角を上げる度にもっと涙が溢れてしまう。
