深夜の逃避行劇

あれから夜が明け、ようやく郊外に入り建物がまばらになり始めた道を歩いていた。
降り続く雨の中、公衆電話を探しながら線路沿いを通っていく。人のいない平日の昼間はとても静かだった。

そうして歩いているうちに、無人駅である鳴門なると駅すぐそばの廃校になった高校の近くにぽつんと佇む公衆電話を見つけた。
電話ボックスのドアの外で璃来は春を見つめていた。受話器を持つ手は震え、ボタンを押すこともままならない。時間が経てば経つほど焦りが恐怖を更に駆り立てる。
心の準備に一日も要していた。


" 春、ごめんなさい "
─『ごめんね、春』

" お母さんが悪かったわ "
─『ぼくのせいにして』

" もう絶対春を独りにしないからね "
─『春は独りじゃない、ぼくがいる』

" 春はお母さんの大切な宝物よ "
─『春はぼくの大切だから』


あれほど春が願っていた母親に望んだ言葉は、全て璃来が満たしてくれた。
もう春わたしの人生にあなたお母さんは必要ない。これは、それを確信に変えるための春の選択だった。

新月が昇る。


『_たかがそんなことで自分の人生棒に振ってまで家出?ふざけないでちょうだい。物語の中の世界じゃないんだから…。これ以上お母さんに迷惑かけないでください。』


受話器から聞こえる溜め息と " 情けない " という呟きが聞こえ、全身に重りをつけられたように重圧がかかった。


『相変わらず謝罪のひとつもないのね。はぁ…もういいわ。お父さんと迎え行くからどこにいるか言いなさ_』


春はガチャン!と大きな音を立てて電話を切る。
やっと掛けられた電話は一分と経たずに自らシャットアウトしてしまった。

人なんて、そうそう変わるものじゃない。
分かっていたはずなのに、私の気持ちを少しでも分かってくれたのではないかという、どこか期待してしまった自分がいたのも事実だった。

自分勝手だったと思う。無責任だったと思う。
だけど、少しも寄り添ってくれないくせおもちゃのように縛り付けるその杜撰さがこの結果を招いたのも事実じゃないのか。


子供を操り人形のように扱ったのは誰よ。
(わたし)を受け入れようとしなかったのは誰よ。
(わたし)の心を見殺しにしたのは、___


あなた(お母さん)でしょ…、ッ!!」


嗚咽がもれる。顔を手で覆い俯き、立っていられなくなって電話ボックスの中でしゃがみこむ。
一生懸命少しずつ必死に積み上げてきた勇気を一瞬で自分ごと踏みにじられたような気分だった。

もう春は、ひとりでは立っ(生き)ていられなくなっていた。