深夜の逃避行劇

『みなさんこんばんは。" アリアドネの糸 " ラジオパーソナリティのヒロと申します。』


日曜日の深夜25時。真夜中に始まる延長戦。

軽快なオープニングの音楽が鳴り出す。落ち着いた優しげな低い声がノイズとともに携帯ラジオから聞こえる。

一週間前にこのラジオを聞いた日に春の提案・執筆でハガキを送っていた。
ヒロのお便りコーナーは別名『解決の糸口』と呼ばれていることを前回知ってから、わずかな期待とほんの気まぐれを込めて。


『…。ええ。…はい。では。今日もお寄せいただいたお便りを読んでエンディングに移ろうと思います。今回もたくさん届きました。早速ですがまずはこちら。" 迷える仔羊 " さんからいただきました。…』


他愛のない話をして30分を過ぎた頃、最近はほぼメインとなりつつあるお便りコーナーが始まった。


『続きまして、" えびのしっぽ " さんからいただきました。" ヒロさん、初めまして。気になって夜しか眠れない1日を過ごしているので質問します。ラジオタイトルの由来は何ですか? " 』

『はは、夜は眠れているなら結構ですよ。そうですね、タイトル『アリアドネの糸』の由来ですね。実は、名付け親になったある女の子がいるんですよ。…』


湿気を帯びた風が吹く。気持ち悪いくらいにじっとりした空気が辺りに漂っている。


『では本日最後のメッセージです。" くんちゃん " さんからいただきました。』


" 私はいま旅をしています。誰にも縛られない、目的地に向かうだけの自由な旅です。
私は今まで生きてきて後悔しなかったことがありません。それをすべて捨てて置いてきました。自分かわいさに逃げてきました。私は、今が一番幸せです。なのにいつも不安です。後悔しているんでしょうか。でも、間違いなんて思っていません "


諦めかけた頃、春のハガキが拾われた。
慰めや肯定がほしいわけじゃない、春の世迷言。


『その通り、旅も人生も必ず終わりがあります。未来終わりを見たくないから過去を見るけど、完璧な人生を歩んだ人はいません。だから間違いを探して不安になります。
覚えていますか。小学校の道徳の授業。道徳では正解も不正解もありません。だけどそれが余計に自分を惑わせて苦しめるんですね。型にはまった生き方しか知らないから。殻を破るのが怖いなんて当たり前です。やったことがないのだから。

正解この先を、見つけてみませんか。ここは道徳の世界じゃありません。人と違っても、すべてに答えがあります。
____くんちゃんさんは、公衆電話のおまじないを知ってますか?』